広報誌「TRUTH」2025年度春夏号
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*1体内で合成できない必須脂肪酸の一種。魚や海藻などに多く*2ミトコンドリアが損傷を受けた際に細胞質に放出されたミト11食物繊維不足果物不足感染(ピロリ、B/C肝炎ウィルスなど)経口避妊薬・ホルモン代替治療動脈硬化とがんの危険因子は似ています。その“かなめ”のひとつにDNA損傷があると考えています。含まれる。コンドリアDNA。喫煙加齢肥満運動不足塩分過剰過度な飲酒遺伝糖尿病脂質異常症高血圧ストレス男性詳しくはこちら機能があります。しかし、加齢によって修復機能が低下したり、外的要因によりDNA損傷が増えると、細胞老化が進み、動脈硬化につながることが分かってきました。 研究の結果、喫煙や脂質異常症がDNA損傷を蓄積させ、細胞老化と慢性的な炎症を誘発して動脈硬化を進行させることが分かりました。しかし、危険因子を取り除けば、DNA損傷の蓄積は軽減されます。例えば、喫煙はDNA損傷を強く引き起こしますが、禁煙することで損傷の蓄積を抑えることができます。また、オメガ3多価不飽和脂肪酸*1が酸化ストレスを減らし、DNA損傷を軽減することも示しました。これらの研究から、生活習慣や食事・栄養が血管の健康維持に重要であることが分かりました。 さらに、DNA損傷は核DNAだけでなく、ミトコンドリアDNAにも生じることが明らかになりました。特に喫煙によるミトコンドリアDNAの損傷が炎症をさらに増幅すること、血液中の遊離ミトコンドリアDNA*2濃度が動脈硬化患者で高いことが確認されました。これにより、遊離ミトコンドリアDNAが動脈硬化の診断指標として応用できる可能性があり、現在特許を出願中です。 私たちの細胞のDNA損傷修復能力は加齢とともに低下し、損傷が蓄積していきます。DNA損傷を誘発する要因が存在すると、さらにDNA損傷は蓄積し、細胞の機能低下や細胞老化がより早期に進み、さまざまな組織や臓器の病気につながると考えられています。したがって現在では、動脈硬化のみならず、がん、糖尿病、慢性腎臓病、神経変性疾患、変形性関節症・骨粗鬆症なども、DNA損傷の蓄積が関与する加齢関連疾患として注目されています。近年、老化細胞を除去するワクチンの研究も進められていますが、私は老化細胞を増やさない生活習慣のほうがより重要だと考えています。栄養学科に所属しておりますので、今後は栄養学の視点からDNA損傷の抑制や修復促進に関する研究を進めていきたいと思います。バランスの取れた食事や特定の栄養素の摂取が、DNA修復機能をサポートし、動脈硬化の予防につながる可能性があります。栄養学と動脈硬化研究を組み合わせることで、より効果的な予防法や治療法を見つけ、社会全体の健康維持に貢献したいと考えています。また、健康な血管を維持するための知識を広め、予防的なアプローチを多くの人に提供することが、今後の大きな課題であり、目標でもあります。がんの危険因子動脈硬化の危険因子栄養学の視点からアプローチ 私は2024年10月より広島修道大学健康科学部健康DNA損傷と老化と血管の深い関係から考える血管の健康を守るために私たちができること老化と病気の発症をつなぐハブ「DNAの損傷」ミトコンドリアDNA損傷の影響

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