09視線入力装置で選択する様子 ▲広島修道大学は、「未知(道)を切り拓く挑戦と創造の拠点」として、2040年に向けたビジョンを掲げています。その中で、持続可能な社会の実現に向けた研究・教育活動の強化は、大学全体の重要な使命の一つです。私の研究「クモヒトデ類を用いた環境DNAメタバーコーディング技術の開発」もこのビジョンの実現に貢献するものと考えています。環境DNAとは、水や土壌中に含まれる生物由来のDNAをさし、これを分析し、生態系の状態を把握する技術をメタバーコーディング解析と呼びます。私の研究では、クモヒトデ類を指標生物として活用し、海洋環境のモニタリング手法を確立することをめざしています。クモヒトデ類は広範囲に分布し、環境変化にも敏感と言われており、そ意思の表出や応答が微弱な重度・重複障害児(重度の子)に対し、PCの視線入力装置を使用して反応を引き出す試み(仮想空間での学習)が行われています。この背景には、特別支援学校の90%の先生が、重度の子に意図が伝わったと感じられていない状況(児山, 2015)があると考えられます。重度の子の反応がわかりやすくなるため、視線入力による学習は多くの学校・地域療育センター・病院等で取り組まれるようになりました。このような現状に対し、コミュニケーション発達が専門の私は、仮想空間で表出された重度の子の反応を、現実世界での他者とのやりとり(応答的関わり)に発展させることが重要であると考えています。反応をPCソフトに向けるだけでなく、人とのやりとりにのDNAを解析することで、海洋の「健康状態」を評価することが可能と考えています。この研究は「オーシャンショット研究助成事業」に採択され、国際的な視点からも期待されています。同時に、本研究は地域社会との連携強化にも寄与すると考えています。例えば広島湾を含む瀬戸内海の環境保全は、大学が地域貢献を果たす上で重要なテーマです。環境DNA解析技術を活用し、育てたいのです。しかし、仮想空間の反応を現実世界でのコミュニケーション行動に結びつけようとする研究はほとんど行われていません。人の赤ちゃんは、生まれながらに人とかかわりながら成長する性質を有しています。生後9カ月で他者の気持ちを理解するようになり、気持ちを共有しながら成長します。重度の子も同様の資質を有していると考えられるので、人とかかわりながら育ってほしいのです。重度の子ども達が他者とコミュニケーションを行うようになり、社会とかかわり、対人関係の能力を高めることで、生活がより充実したものになるでしょう。仮想空間に対する重度・重複障害児の反応を、現実世界の他者とのコミュニケー地元自治体や企業と協力した海洋モニタリングを推進することで、より効果的な環境保全策の立案が可能となるかもしれません。さらに、本研究は広島修道大学の理系教育の発展にも貢献します。環境DNA研究は分子生物学や生態学、情報科学などを横断する学際的な分野であり、学生がDNA解析やデータ分析を学ぶ機会を提供します。また、実験やフィールドワークを通じた体験型学習が強化され、理系分野の実践的なスキル習得に役立つことが期待されます。今後も、ビジョンVALUE02「地域を導き世界を変える研究」に寄与するため、教育、研究、地域貢献の各側面において大学に還元し、社会の発展に貢献していきたいと考えています。ションに発展させるための要件とその支援方法を検討し、教育モデルを作成することが研究の目的です。本研究は、①工学系の「仮想空間での学習」、②教育・心理学系の「他者とのコミュニケーション能力の育成」の2つのアプローチを連携・融合する「心理工学」というべき新たな展開を志向する挑戦とも言えます。特集長崎県での採水の様子 ▲広島修道大学VISION2040 未知を切り拓く「挑戦」と「創造」の拠点として
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